プリメインアンプXシリーズ比較ガイド

あらゆるリスナーのニーズに応える
4機種のプリメインアンプ

歴史あるオーディオ・メーカーのラックスマンは、1960年代の初頭からプリメインアンプを製造してきた。当時はひとつのモデルを作っていれば顧客のニーズに応えることができた。しかしながら1960年代の終わり頃になると、ラックスマンは複数のプリメインアンプをラインアップするようになる。ちょうどこの頃、音楽とオーディオの世界には多様化の波が押し寄せていた。音楽においてはクラシック、ジャズと伝統的なポップスに加え、ロックやソウル、ワールドミュージックが流行し、オーディオにおいてはフルレンジ一発が一般的だったスピーカーの分野に、能率の低い小型機やマルチウェイ機が出現するようになった。多様化の時代に対応すべく、当時のラックスマンは複数機種の同時生産に踏み切ったのだ。この伝統は受け継がれ、現在、ラックスマンのプリメインアンプ「Xシリーズ」は4機種から構成されている。それぞれ価格こそ異なるものの、筐体やフロントパネルの意匠はほぼ同じだ。では、これらはどこがどう異なるのか。何を基準にして選べばいいのか。ユーザーの疑問に答えるべく、筆者は「Xシリーズ」の選び方の手引きとなるものを書くことを思い立った。

オーディオ評論家 石原 俊

「Xシリーズ」に共通するもの

「Xシリーズ」は、信頼性の高いプリメインアンプ群である。どのモデルも上質な電源回路を搭載しており、スピーカーのインピーダンス変化に対してほぼリニアに反応するように設計されている。回路の方式はODNF(Only Distortion Negative Feedback)だ。これは増幅回路の出力から歪成分のみを帰還させるラックスマン独自の方式で、初期スルーレートが極めて高く、超広帯域の信号がほとんど歪のない状態で得られる。音量調節回路はLECUA(Luxman Electronic Controlled Ultimate Attenuators)だ。これは可変抵抗を使用せずに抵抗値を変化させる仕組みで、本来は大規模な単体プリアンプに搭載するものだっが、ラックスマンの高い技術力は小型化に成功した。筐体は独立コンストラクションのループレスシャーシを採用。現代のオーディオにおいてシャーシの制振性能はアンプの音色を支配する最も重要なファクターのひとつなのである。4兄弟の顔の「目」に相当するメーターは、まことに便利なものだ。昨今のアンプはメーターを省略するのが一般的だが、スピーカーとアンプを安全に動作させるためには出力の確認が有効であり、メーターの動きを眺めながら音楽を聴くのは実に楽しい。同じく、省略されがちなトーンコントロールがついているのもありがたい。深夜に小音量で聴くときなどは、高域と低域を少し増量するだけで音楽がイキイキとしてくる。さらには全モデルともフォノイコライザーを標準装備しているので、レコードプレーヤーを用意すればすぐさまLPの世界を堪能することができる。価格差によるパーツのクオリティ差こそあれ、「Xシリーズ」は総じてユーザーフレンドリーで、使いやすく、リスナーに大きな喜びと感動を与えてくれる。

A級動作とAB級動作

「Xシリーズ」は2つのタイプに分類することができる。L-590AXとL-550AXがA級動作であるのに対し、L-507uXとL-505uXはAB級動作である。A級とAB級には、プッシュプル回路のアイドル電流のかけ方に違いがある。A級は素子の全動作領域に無信号時でもアイドル電流が流れているので、波形のクロスオーバー歪が生じないが、AB級では動作領域の一部にアイドル電流を流しているだけなので、一定の出力以上の領域では波形の切替時にずれが生じる可能性がある。A級動作はアイドル電流が多いので発熱が大きいため、上部に広い空間をあけ、風通しの良い場所に設置することが重要である。また、A級動作機はAB級動作機に比べて最大出力値が小さい。ただしL-590AXとL-550AXは、定格出力を超える領域でも安定した動作が得られるような設計がなされている。一方、AB級動作機はA級動作機に比べてハイパワー専用機とみられがちだが、実は多くの場合、A級に等しい動作をしている。例えば、リビングルームで常識的な音量で聴く限り、L-507uXやL-505uXがA級動作領域を大幅に超えるケースは少ない。A級動作機とAB級動作機の最大の差異は、そのサウンドである。A級動作機は総じて暖かくてなめらかな音調を有しているのに対して、AB級動作機は比較的クールで分析的だ。どの機種を選ぶかは、使用するスピーカーやよく聴く音楽のジャンルによって変わってくる。

スピーカーの能率とアンプのパワーの関係

ラックスマンのプリメインアンプが初めて世に出た1960年代初頭は、完成品の大型スピーカーは高価なため所有するユーザーは少なかった。当時のドライバーユニットの能率は高く、内容積が大きな箱に入れればかなりの低音が出たし、1Wのパワーで約100dBに近い音圧(振動板から1mの地点で計測)を得ることができた。完成品の場合は2~3ウェイでも能率が高く、特に中高域にホーン型のドライバーユニットを使用した高級品は100dBを超えていた。現在の一般的なスピーカーは90dB程度に過ぎず、それを下回るケースも珍しくない。つまり1960年代と2010年代のスピーカーの能率に最小でも10dB弱、最大では10dBを大きく越える差があるのだ。デシベルで表される音量差が要求する電力差は、6dBで4倍、12dBで16倍となる。したがって、現代のアンプには昔の約4~16倍の出力が求められることになる。当時、一般的だった直熱三極管をシングル使用したステレオアンプの出力は5W×2程度である。この数値に昔と今のスピーカー最小要求出力差の4をかけると20W×2となる。これはL-550AXの定格出力に等しい。一方、ラックスマンが1962年に初めてリリースし、破格のハイパワー機と称賛されたSQ5Bの出力は14W×2を誇った。この数値に同最大要求出力差の16をかけると224W×2となる。これはL-507uXの4Ω負荷時の定格出力とほぼ同じである。こういう計算をしてみると、「Xシリーズ」が現代のスピーカーの能率に即した出力値を身につけ、スピーカーとアンプの伝統的な関係を維持していることが理解できる。

アンプと部屋と音楽と

オーディオサウンドを決定づける2大要素はスピーカーとアンプだが、システムをセッティングする部屋や音楽のジャンルの影響も少なくない。例えば、小型スピーカーのオーナーが休日の午後などに隣人や家族に気兼ねすることなく大音量の音楽を聴くならL-505uXが良い。このモデルは小音量時の解像度も高いので、平日の深夜にひっそりと聴くのにも向いている。一方、リビングルームでジャズやボーカル、クラシックをメインに聴くリスナーには、L-550AXがお薦めだ。このモデルはスペック上の出力こそ高くはないものの、そのサウンドは情緒的で、味わい深く、ほとんどのスピーカーをドライブすることができるし、伝統的な高能率スピーカーを所有されている方にとっては絶好のチョイスになる。私室にシステムをセッティングしているリスナーは分析的に音楽を聴くケースが多い。そういうリスナーにはL-505uXかL-507uXをお薦めする。また、広めのリビングルームでオペラを本格的に楽しみたいリスナーにはアンプを慎重に選んでいただきたい。ソプラノがアンプに要求するエネルギーは予想以上に大きいので、余裕のある大出力機でないと熱唱時にパワー不足となってしまうことがあるのだ。90dBを大幅に下回る能率のスピーカーと組み合わせる場合は、AB級動作機のL-507uXがお薦めだが、A級動作機のL-590AXのゴージャスな音質もお楽しみいただきたい。L-590AXは、最も高級なパーツが使用されており、オーディオ的にも音楽的にも完成度が高く、さまざまなジャンルの音楽に造詣が深いリスナーを十分に納得させるだけの表現力を有している。

各モデルの音質インプレッション

L-505uX

ラックスマンのベーシックな音である。音場のS/N比が高く、音像が彫刻的だ、音楽表現は4機種中、最も元気が良い。音楽のジャンルは問わず、何でもござれといった印象だ。同価格帯のプリメインアンプの中では最も低域の量感があり、スピーカーのドライブ能力も上々だ。小型ブックシェルフ機をバリバリ鳴らしてもいいし、低能率・低インピーダンスの国産ビンテージ機のオーナーにとっては絶好のチョイスとなるだろう。

L-507uX

明晰かつ雄渾な音である。音場はあくまでも広く、音像表現はグラマラスだ。低音の吹き出し感はあらゆるプリメインアンプの中でもトップクラス。スピーカーのドライブ能力もすばらしく高く、高性能・低能率機を軽々と鳴らしてみせる。音楽的には分析能力が高く、後期ロマン派の複雑な交響曲を解剖学的に描くことができる。パワーに余裕があるので、ワーグナーやヴェルディ、プッチーニなどのオペラは得意中の得意だ。

L-550AX

なめらかで明晰な音である。A級動作機ならではの躍動感があって聴感上のパワーはスペックをはるかに上回っており、20畳クラスのリビングルームで低能率なスピーカーを鳴らしても、常識的な音量の範囲内にある限り、問題が起こることはない。基本的に不得意な音楽ジャンルはないが、クインテット以下の編成のモダンジャズや、スタンダードナンバーのボーカル、モーツァルトやブラームスの作品との相性がいい。

L-590AX

解像度や音場の静けさはL-507uXに等しいが、音色感が異なる。スペック上の出力は控えめであるにも関わらず、音には浸透力が、音楽には説得力があって、何を聴いても納得させられてしまうのだ。音そのものが芸術になっているといってもいい。スピーカーのドライブ能力はスペック以上に高く、大多数のスピーカーを十全にドライブすることができる。音楽のジャンルも問わず、まさに万能のプリメインアンプである。

プリメインアンプ用語集

ラックスマンのプリメインアンプ「Xシリーズ」の単品カタログなどに登場する、独自の回路名やオーディオの性能をあらわす用語など、特に普段からご質問の多い項目について簡単にご紹介します。

  • ODNF

    ラックスマン独自の高音質増幅帰還回路Only Distortion Negative Feedbacの略称です。従来の増幅回路では、音楽信号の全帯域を帰還するため、歪と一緒に音楽そのものも抑え込んでしまっていました。ラックスマンでは、音楽の躍動感や生々しさを損なわずに増幅させるため、仕上り利得に近い低利得の裸アンプを開発。誤差アンプにより入力と出力を比較し、増幅中に発生した歪成分のみを検出しフィードバックする独自の方式との組み合わせによって、初期スルーレートが高く、超広帯域/低歪の自然な音質を実現しました。

  • LECUA

    独自の電子制御アッテネーターLuxman Electric Controlled Ultimate Attenuaの略称です。ボリュームの位置によって回路前後のインピーダンスが変化してしまう摺動型の可変抵抗器に比べ、各音量ポジションがシンプルな分圧抵抗で構成されたLECUAは、ギャングエラー(音量偏差)や、ガリ等の経年変化の発生、各音量ポジションでの音質の違いが出ないなど多くのメリットを実現しました。プリメインアンプ「Xシリーズ」では、従来の可変抵抗器をボリュームノブの位置検出用に使用することで、これまでと同様の操作感も併せ持っています。

  • ハイイナーシャ電源

    通常の電源回路では、音楽信号によって変動する出力電圧と、それがフィードバックされて制御が働くまでの間に時間差があり、ミクロ的に観察すると電源電圧が絶えず小刻みに揺れ続けてしまうという現象が発生します。「ハイイナーシャ(高慣性)電源」では、電源電圧を一定に保つレギュレーター回路のフィードバック制御を最小限とし、優れた瞬時放電特性を持つ大容量の電解コンデンサーを搭載。常にゆとりのある電源電流をアンプ内部にプールできる環境を作り上げ、過剰なフィードバックによる音質への弊害を解消しました。

  • スターサーキット

    電源供給ラインやアースラインが各回路間で共有化されてしまうことによる悪影響を排し、それぞれをすべて同一の基準点からダイレクトに各ブロックや信号経路に接続することで、独立ルートを構成する独自の配線構造を「スターサーキット」と呼んでいます。この構造によって各回路間の相互干渉を抑え、信号電流の変化による電源電圧やアースレベルの変動要因を根源から取り除いています。基準点から放射状に張り巡らされる配線の様子を星(☆)の形状になぞらえて「スターサーキット」と命名し、ラックスマンのすべての製品に採用しています。

  • ビーラインコンストラクション

    プリメインアンプ「Xシリーズ」の開発では、従来のシリーズを14年ぶりにフルモデルチェンジするのに伴って、メインとなるアンプ回路の他に、様々な機能や回路を一体型の筐体に収めなければならないプリメインアンプの内部構成を、一から完全に見直しました。検討を重ねた結果、音楽信号の伝達経路がシンプルで最も合理的なルートとなる配置を構成し、「ビーラインコンストラクション」と名付けました。蜂が花の蜜を集め、巣に帰る飛行経路(ビーライン)が、効率的で無駄がないことになぞらえて命名された配線構造です。

  • ループレスシャーシ

    オーディオコンポーネントが内蔵する電気回路のアースとして、自身の金属筐体を使用する場合、複雑に組み合わされた筐体構造が電気的なループを構成することで、それぞれの経路ごとに逆起電力が発生し、基準点が曖昧化してしまいます。このような状況を避けるため、筐体の電気的な接続を最低限に抑え、生産工程で厳しく管理したのが「ループレスシャーシ」です。この構造により、シャーシ上での電流の干渉や磁界の発生など、音楽信号に悪影響を及ぼす要因を大幅に抑制しています。

  • ラウンド配線パターン

    プリント配線基板上を流れる「電子の気持ちになって考える」というコンセプトを具現化した配線パターンです。信号ラインのパターン幅を一定に保ったなめらかな曲線を描くことで、音楽信号の電流密度が一定化し、インダクター成分を抑え、音の詰まりやリンギングの発生しない音楽再生と、ストレスのない信号伝送による伸びやかな音楽表現を獲得しています。配線パターンの鋭角な方向転換などで発生する磁界の影響も抑えられ、最も効率的で、純度の高い音楽信号の伝送を実現するために必須な、基板設計の基本ポリシーです。

  • ダンピングファクター

    スピーカーに対する制動力をあらわす性能として、アンプの出力インピーダンスがスピーカーのインピーダンスに対してどれだけ小さいかを数値にしたものです。例えば8Ω負荷時のダンピングファクター(DF)が100の場合、アンプの出力インピーダンスは8Ω÷100=0.08Ωとなります。DFが小さいと、スピーカーから発生した逆起電力を抑制できません。DFの優れたアンプでは充分に出力インピーダンスが低いため、スピーカーからの影響を受けることなく、本来音楽に含まれていない余計な余韻の無い、締まった低音を出すことができます。

  • 純A級/AB級

    増幅回路において、常に増幅素子を動作領域とするためのアイドリング電流を流し続ける回路方式を、純A級と呼んでいます。素子が完全な波形増幅を行なうため、B級方式と比べて、プッシュプルを構成する上下の増幅素子が切り替わる際のクロスオーバー歪が発生しないメリットがあります。また、回路の動作熱による温度感のある独特の中高域の艶や深みのある音質が、古くから支持され続けています。一方、ある一定以上の出力時に、増幅素子が信号波形の上下を個別に受け持つ、高出力を目的とした増幅方式を、AB級と呼んでいます。

  • プッシュプル

    トランジスタなど、2個の増幅素子を正負対称に接続して、信号波形の上下をそれぞれの素子で増幅する方式です。取り出せる電圧が2倍になるため定格出力の大きなアンプに適しており、特性の揃った正負の素子で動作させることにより、対称性が良く、電源ハムノイズのキャンセルや、歪を少なく保つことができるなどのメリットがあります。ラックスマン製品での実際のアンプ回路では、上下の波形の切り替わりでクロスオーバー歪が発生しないよう、バイアスを掛けてレベルをシフトさせるAB級、または純A級動作をさせています。

  • バイワイヤリング

    スピーカー接続では、音楽信号によって押し出されたウーハーが元に戻るときに発生する逆起電力がツイーター側に回りこみ、音楽の高域成分を濁らせてしまうことがあります。これを防ぐため、低域と高域に専用の入力端子を持つスピーカーに対して、それぞれの端子に別々のスピーカーケーブルを接続する配線方法を「バイワイヤリング」と呼びます。AとBの2系統のスピーカー出力を持つプリメインアンプ「Xシリーズ」などでは、出力モードをA+Bとすることで、AとBそれぞれのスピーカー端子から低域と高域用に独立した配線をすることができます。

  • カスタムパーツ

    電解コンデンサーや抵抗など、オーディオコンポーネントの音質に密接に関わる電子パーツを、部品メーカーのカタログに掲載されている標準品ではなく、独自の素材や内部構成、製造方法などによってオリジナルカスタマイズを施したものを、ラックスマン・オリジナルの「カスタムパーツ」と呼んでいます。新規カスタムパーツの開発には、部品メーカーに多大な協力をいただきつつ、仕様を少しずつ変化させた試作品の試聴を何度も繰り返しながら完成度を高めていき、ラックスマンの求める音質グレードに達したものだけを製品に採用しています。